【代表インタビュー】第3弾 子どものことは子どもに聞こう!丁寧なヒアリングで未来が変わる

安心して子どもを産み育てられる社会の土台は、子どもの遊びから

第1弾では子どもにとって遊ぶことがなぜ大切なのか。第2弾では、子どもを真綿でくるむように危険から遠ざける風潮「コットンウールカルチャー」の問題点と、そこから抜け出すために必要な考え方や視点についてお話してきました。

第1弾(前編)「子ども主体の政策は、遊ぶ権利の保障から」(前編)
第1弾(後編)「子ども主体の政策は、遊ぶ権利の保障から」(後編)
第2弾「子どもを体験から遠ざける コットンウールカルチャーって?」

令和4年6月に成立したこども基本法の第11条では、こども施策の策定等に当たって子どもの意見の反映に係る措置を講ずることを国や地方公共団体に対し義務付ける規定が設けら
れました。今後「子どもの声を聴く」ことは、社会全体で取り組むべき課題になります。
第3弾では、「子どもの声を聴くこと」について、具体的な方法や大切にしたいことをお話していきます。

第3弾
子どものことは子どもに聞こう!丁寧なヒアリングで未来が変わる

ーー第1弾では、子ども関連の政策施策が効果をあげているかどうか、子ども自身に教えてもらおう、という取り組みの事例を紹介しました。TOKYO PLAYでも2011年に東京都福祉保健局の事業で子どもたちからのヒアリングを実施したと聞いていますが、まずはその調査について教えてください。

 (嶋村)東京都では、平成17年度~26年度に前後期に分けて「次世代育成支援東京都行動計画」を策定し、子どもと家庭の健やかな暮らしのための施策を行いました。そのうちの後期行動計画(実施期間平成22~26年度)を評価するための基準作りに、子どもや子育て中の保護者など、支援の対象となる当事者の声を反映させようということになり、そのヒアリング調査をTOKYO PLAYが受託し、実施しました。この調査結果の全文・概要は、TOKYO PLAYのHPに公開していますので、ぜひご覧ください。

TOKYO PLAY 「次世代育成支援東京都行動計画」(後期)の評価に係る調査報告書

研修を受けたファシリテーターが 子どもの話をとことん受け止める

ーー実際の調査はどのような方法で行ったのですか。 

(嶋村)行政の事業に対する評価基準を作る際に、子どもの声を反映させようという東京都の判断が、当時としてはそもそも画期的だったのではないかと思っていますが、その調査方法自体もそれまでにないものでした。

・行動計画の対象者となる子どもに対して、よくあるアンケート方式ではなく、グループ・ヒアリング方式を採用して、東京都内全域(41か所・279人)で行ったこと

・子どもが安心して本音が話せるように、単に学校内の授業中などではなく、ふだんから子どもが居場所としている場所を中心に少人数(4人~8人)で行い、ファシリテーターは子どもの数の1/3以下になるようにしたこと

・ヒアリングを実施するファシリテーターは、日常的にフラットな関係で子どもと関わる機会のあるプレーパークや児童館、子育てひろばなどでの現場経験がある者としたこと

・様々な背景の子どもたちからも声を聴くことができるように、養護施設や自立支援ホーム、里親家庭などの子どもたちにもヒアリングを実施したこと

・子どもたちが安心して本音を話すことができるヒアリングの環境づくり、ファシリテーターの心構え、留意点などについて研修を実施したこと

実際のヒアリングでは、「東京は好き?」「どんな大人になりたい/なりたくない?」「もし東京を自由に変えられるとしたら、どんなことをしたい?」ということを軸に、「何を言ってもいいよ」というスタイルで子どもの声を聴いていきました。すると、単に一律に配布されたアンケートに答えるのとは違い、会話を進めていく中で、どんどん子どもたち自身の気持ちや考えが言葉になって出てきます。

その中でも声が多かったのは、「東京は嫌い」「こんな大人になりたくない」についてでした。具体的には、「女子高生というだけでナメられる」「大人が道でツバを吐く」「子どもに冷たい人にはなりたくない」「子どもの話を聴かない人にはなりたくない」というような声でした。中には、「ホームレスになりたくない」という声が出た一方で、「そういう風に自分たちが人のことをひとくくりにしてたら、学校の先生がうちらのことをひとくくりにしてしまうと同じじゃない?」と、子どもたち同士での対話が始まるような場面も見られました。

また、「東京をどうやって変えたいか」というテーマでは、「アルバイト代が駐輪場代で消えていくので、高校生は駐輪場を無料にしてほしい」「学校の先生が生徒と話ができるように、仕事を少なくしてほしい」「図書館だと静かすぎるし、カラオケやファミレスはお金がかかるので、その中間のような場所をつくってほしい」という声が出ていました。

このように、ヒアリングの報告からは、子どもたちが自分たちの置かれている環境や、大人たちについて、かなり敏感かつ冷静に観察していることが分かります。学校や遊び環境などへの不満や「こうしてほしい」という要望は、政治が参考にすべき点も多くありました。

ひとつ大きなショックだったのは、私たちのリーフレットにも「まとめ」として記しましたが、いくつもの場所で「大人は話を聴いてくれない」「どうせ何を言っても変わらない」「モデルとなるような大人の人との出会いが少ない」ということが共通してあがったことでした。これは、私たちの社会が根本的に変化していかなければならないことを表しているのではないかと思います。

その一方で、なによりも収穫だったと考えられることが、ヒアリングを行うこと自体が子どもたちのエンパワメントにつながるということが分かったことです。

「話してすっきりした」「次はいつやるんですか?」
子どもにとっても有意義なヒアリングに

 ーーヒアリングを行うこと自体が子どもたちのエンパワメントにつながるというお話がありましたが、実際ヒアリングをしてみて子どもたちからどんな様子が見られましたか。

(嶋村)ファシリテーターは、時々質問をしたりしながら、基本的には子どもたちが自由に話すのをひたすら聴いていくのですが、最初の30分から1時間は「本当に何を言ってもいいの?」と疑心暗鬼になっている子どもたちの心をほぐす時間になることもありました。というのは、ふだんの生活の大人のいる場所で「何を言ってもいい」という経験がほとんどないということの裏返しだったかもしれません。

ただ、時間をかけて傾聴していくと、安心して自由に本音を語り、子どもたちの話の内容がどんどん深まっていくんですね。そして、単純に「聴いてもらえる」ということ自体が、子どもを力づけ、今までみんなの前で話したこともなかったようなポジティブな想いがあふれてくるという場面に幾度も出会うことがありました。

終了後には、「楽しかった」「すっきりした」「楽になった」「またやりたい」といった感想が聞かれました。当初、このヒアリングのために開かれた専門委員会では、「学校の授業と一緒で、45分以上のヒアリングは無理なのではないか」という声もありましたが、ヒアリングが盛り上がってくると、「延長ってできますか?」「次は、何曜日にやるんですか?」という声がいくつもの場所で聞こえてきたのです。

ヒアリングが子どもたちにとって有意義な時間だったことがうかがえます。それは裏を返せば、ふだんから子ども自身の気持ちや考えを話し、受け止めてもらえる場が足りていないことを意味すると言えるのではないでしょうか。

そして忘れてはならないのは、ヒアリングに参加してくれたさまざまな施設の協力も大きかったということです。というのは、「子どもの声を聴く」と称して訪ねてきた様々な人たちに協力してきたけれど、聴かれた話がどうなったのかの報告が何もないことも多く、施設の人たちが「調査疲れ」しているという話もあったからです。

このヒアリングも、児童館などの公共施設、子ども劇場やスポーツ団体、プレーパークのような遊び場、まちづくり団体、児童養護施設などで実施しましたが、調査には協力施設側の負担も大きいため、調査の成果をきちんと報告するなど、「やったかいのある」ものにするフォローも大切だと感じています。

東京都は令和3年4月に、東京都こども基本条例を施行しました。この条例施行から3年後に、状況を改めて検討し、必要な措置を講ずると定めていますが、その際には子どもの意見を反映させるため、意見を聴く機会を設ける、ということが条例に明記されているのです。このとき、紹介したようなヒアリングが行われる可能性は高いのではないでしょうか。

また、日本政府の子ども政策に関する基本方針でも、政策立案の際に子どもからの意見聴取を重視するとされています。さらに施行後5年を目処に、法に沿った施策の評価等を行うことも決められていますので、子どもたちの意見が反映される仕組みをどのように作っていくか、注目したいと思います。

ーー今後、国や地方自治体がヒアリングを行う際に特に大切なことはありますか。 

ヒアリングが行われる際には、単なるアンケートではなく、今回紹介したヒアリングのように子どもが安心して自由に本音を語ることができる手法が採用されることを期待しています。子どもの本音を聞く際には、私たちをはじめとする、日頃から子どもたちの「遊び」の近くにいる大人が果たせる役割は大きいはずです。そのためにも、子どもの権利についても学び、子どもの最善の利益を考えながら、子どもの声を聴くことができるファシリテーターの数を増やしていくことは、急務ではないかと考えます。

ゆくゆくは、東京都内すべての市区町村や全国で定期的にこのような調査が行われるようになったら、素晴らしいですね。

 時間と手間がかかることは確かです。でも、「子どものことは子どもに聞く」と決めて、丁寧にヒアリングを行うことは、これからの社会を作っていく上で、大きな気づきをもたらしてくれるのではないでしょうか。子どものことがとてもよくわかり、次に何をしたらいいかも見えてくる。そして何より、「子どもの声を聴く」ことは、子どもたち自身によい影響をもたらすのですから。

 

●嶋村 仁志●
一般社団法人TOKYO PLAY代表
一般社団法人日本プレイワーク協会代表、 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会理事、IPA日本支部運営委員、大妻女子大学非常勤講師。
2010年、TOKYO PLAY設立時より代表に就任し、2005年から2011年にはIPA(International Play Association・子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア副代表を務めるなど、国内外で活躍。
共著に『子どもの放課後にかかわる人Q&A50:子どもの力になるプレーワーク実践』(学文社)
翻訳本『インクルーシブって、なぁに?〜子どもを分けない場づくり はじめの一歩〜』(著フィリップ・ダウチ/TOKYO PLAY)が発売中。

 

 

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