【代表インタビュー】安心して子どもを産み育てられる社会の土台は、子どもの遊びから 第1弾前編

安心して子どもを産み育てられる社会の土台は、子どもの遊びから 子どもが遊ぶことを社会で保障しよう!

 2022年6月こども家庭庁設置法法案・こども基本法が可決されました。

子どもを権利の主体として尊重することを軸に、この国が総合的に子どもに関する政策、施策を推進していく環境が整いつつあります。

私たちTOKYO PLAYはすべての子どもが豊かに遊べることを目指して活動してきました。そんな私たちが求めたいのは子どもが遊べる環境づくりを政策の重要課題として位置づけて推進し、その環境づくりが東京はもちろん、全国に広がっていくことです。

そこで、今回「子どもが遊ぶことを保障する社会」をテーマとして、白石智恵子さん(思春期男子お二人の母)にインタビューをしていただきました。TOKYO PLAY代表の嶋村仁志(以下嶋村)が考える「子どもが遊ぶことを保障する社会」についてお話していきます。

第1弾 子ども主体の政策は、遊ぶ権利の保障から

――「安心して子どもを産み育てられる社会の土台は、子どもの遊びから」とありますが。子どもにとって、なぜ「遊ぶこと」が大切なのですか?

(嶋村)「遊ぶこと」の根底にあるのは、「やりたい!」と思ったことをすることです。それは、受け身で何かを一方的にやらされたり、教え込まれたりするのとはちがい、「自分が生きている」という実感そのものにつながります。そして、生き物として自分のいのちを守り、生きていけるようにするために、身の回りの世界に働きかける本能的な営みでもあります。子どもは、遊ぶことで、自分の身体と心を整え、育てながら、人間関係のレパートリーを増やしていきます。

もし、子どもの暮らしから遊ぶことが大きく失われてしまったとしたら、どうなるでしょう。身体の感覚が充分に育たず、身体機能が低下し、ストレスや感情の揺れに弱くなり、生きている歓びが感じられず、ちょうどよい人間関係を築いていくことも 難しくなるでしょう。

子どもの「ウェルビーイング」を保障するには

WHO憲章前文に「健康」の定義が記されています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

公益社団法人日本WHO協会HPより)

ーー誰に取っても、ウェルビーイングというのがとても大切だと思うのですが、子どもの遊びはそこにどのように関係しているのでしょうか。

(嶋村)満たされた状態=Well-being(ウェルビーイング)とありますが、遊ぶことは、子どものウェルビーイングと直結しています。安心できる場所で好奇心を存分に発揮し、自らの意思で体を使い遊ぶことで、子どもは身体も心も満たされて成長し、ストレスや失敗に対してもレジリエンス(負けない心)を発揮しながら、自分が価値ある存在である、という実感を重ねていきます。遊びは人として、いや生き物として根源的な行為です。もし遊ぶことが失われれば、取り返せないくらい、に子どもの身体と心、人間関係に様々な影響が出てしまう、とTOKYO PLAYは考えています。

ーーそうすると、子どもが遊ぶということは、子どもが育つというだけでなく、生きていくという意味でも、とても大切なものなんですね。

(嶋村)2020年の新型コロナウイルス流行に伴う休校措置などの感染症対策に伴い、子どもや若者が遊ぶ機会が激減し、その影響が心配されています。2020年に自ら命を絶った子どもが2019年に比較して激増したことの原因は、自殺リスクを下げることにつながっていたものがコロナ禍で失われたからではないかという指摘もありました。

遊ぶということは、お金を持っている人だけのぜいたく品でも、あれば役立つプラスアルファのサプリメントでも、単なる暇つぶしのためでもなく、すべての子どもに備わった、自分で自分を育て、大丈夫にしていく「いのちのしくみ」の土台だということです。

貧困、虐待、いじめ、自殺…子どもの生死に関わる社会課題が、この日本にはたくさんあります。その対策が急務であることは間違いありません。その一方で、「遊び」はその言葉のイメージからか「不要不急」なものと受け取られがちですが、遊ぶことができる環境が失われてきてしまったということの結果が、こうした子どもたちのいのちに関わる切実な社会課題の解決を難しくしているということは、あまり知られていないのではないでしょうか。

「子どもが遊べない社会」を環境問題ととらえる

――子どもたちが遊ぶ環境は、この数十年で大きく変化していますね。

図1〜3は、一般社団法人プレーワーカーズが2017~2018年に宮城県気仙沼市で約5,000名の協力を得て行った「三世代遊び場大調査」の結果の一部です。現代の子どもたちの遊び環境は、祖父母世代と比較して激変していることがわかります。

(図1 放課後に遊ぶ友達の人数)

放課後に遊ぶ友達がだれもいないと答えたのは、祖父母世代が1%なのに対し、子ども世代は18%。祖父母世代では5人以上、親世代では3〜4人と遊ぶ割合が約半数ですが、子ども世代ではばらつきがあり、遊ぶ子は遊んでいるが、まったく友達と遊ばない子も一定の割合を占めていることが見て取れます。

(図2 平日の遊ぶ日・平日の外で遊ぶ日)

子どもたちが平日に遊ぶ日数と、平日に外遊びをする日数。遊ぶ日数はばらつきがある一方で、平日にまったく外遊びをしない子が7割超。

(図3 放課後の遊び空間)

放課後の遊び場は、親以上の世代は周辺の自然も含めたさまざまな場にありましたが、子ども世代では自宅のほかは公園、校庭、児童館などの公共スペースに限定されている傾向があります。

そして、情報社会の今、社会の最先端として誰もが電子ゲームに夢中になることは避けられないでしょう。けれども、社会全体として子どもが遊びづらい環境が、子どもを電子ゲームに追いやってしまっていると言える面もあるかもしれません。もちろん、映画や本のように誰かが作った世界観を楽しむエンターテイメントやバーチャルの世界から得られるものは少なくはありませんが、広い意味での遊ぶことの価値全体から考えたときには、ほんの一部です。

――私たちは、これからどうしていくのがよいのでしょうか?

(嶋村)子どもが遊ぶことの大切さを享受できるようにするためには、もう個人の努力や草の根の活動ではどうしようもないところに来てしまっている感もあります。つまり、社会全体の課題として子どもが遊べる環境を整えようとするには、大気汚染などの公害と同じ「環境問題」として捉え、社会全体として対策を行うことが必要です。

かつて自然環境の破壊による公害が起こった際、国は深刻な事態であるという認識をもって対策を講じて、社会全体としての人々の意識改革を進めてきました。子どもの遊びも環境問題だという認識で、国主導の対策を取るとともに、それが大切だという共通認識を大人たちが持つよう働きかける時が来ています。子どもが遊べる豊かな環境が社会によって保障されなければ、子どものウェルビーイングが実現することはないでしょう。

後編では、社会として行うべき対策・取り組みについて具体的にお話していますので、お楽しみに!

次回
子ども主体の政策は、遊ぶ権利の保障から
後編「子どものことは、子どもに聞く!子どもが遊ぶ環境の「見える化」で実質的に必要な施策を」

●嶋村 仁志●

一般社団法人TOKYO PLAY代表
一般社団法人日本プレイワーク協会代表、 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会理事、IPA日本支部運営委員、大妻女子大学非常勤講師。
1995年、英国Leeds Metropolitan大学ヘルス&ソーシャルケア学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年より、東京都「羽根木プレーパーク」、神奈川県「川崎市子ども夢パーク」なdp、冒険遊び場のプレーリーダー(プレーワーカー)歴任。
2010年、TOKYO PLAY設立時より代表に就任し、2005年から2011年にはIPA(International Play Association・子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア副代表を務めるなど、国内外で活躍。
共著に『子どもの放課後にかかわる人Q&A50:子どもの力になるプレーワーク実践』(学文社)
翻訳本『インクルーシブって、なぁに?〜子どもを分けない場づくり はじめの一歩〜』(著フィリップ・ダウチ/TOKYO PLAY)が発売中。

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