【代表インタビュー】安心して子どもを産み育てられる社会の土台は、子どもの遊びから第1弾後編

安心して子どもを産み育てられる社会の土台は、子どもの遊びから

子どもが遊ぶことを社会で保障しよう!

前編では「子どもにとって、遊ぶことがなぜ大事なのか」「子どもの遊び環境」についてお話しました。(前編記事はコチラから)

後編では引き続き、白石智恵子さん(思春期男子お二人の母)にインタビューをしていただき、TOKYO PLAY代表の嶋村仁志(以下嶋村)が、「子どもが遊ぶことを社会で保障する」ために、必要な視点をお話していきます。

第1弾 子ども主体の政策は、遊ぶ権利の保障から(後編)

子どものことは、子どもに聞く!
子どもが遊ぶ環境の「見える化」で実質的に必要な施策を


ーー
前編では子どもの遊ぶ環境が、ここ10年で大きく変化していることを示す調査がありましたが、日本の子どもたちの遊び環境の保障をするために、具体的にどんな施策が考えられるでしょう?

(嶋村)子どもの遊ぶ環境がどれだけ保障されているかという、目に見えにくいものを評価するための評価は、従来は「整備した公園数と面積」「児童館や放課後児童クラブの施設数や利用者数」など、大人が設置したものについて調べた数値のみを基準することが中心となっていました。けれども、それでは子どもたちが本当に遊べているか、子どもたちの求めていることと合致しているのかどうかは、まったく分かりません。

こうした子どもが遊ぶ環境を評価する方法として参考になるのが、ウェールズ、スコットランドといったイギリス各国の政策です。

(参考「社会として子どもの「遊ぶ」を保障する イギリス・ウェールズでの取り組み

スコットランドでは、自治体による子どもの遊ぶ環境に関する3年ごとのアセスメントが義務になっています。その中には、子ども自身への聞き取り調査も含まれます。以下は子ども向けの質問の一部です。

・どんな遊び方が好きですか?
(アクティブに身体を動かす/危険に挑戦する/近所をぶらぶらする/ものをつくる/静かに過ごす/ぐちゃぐちゃに汚れるなど)
・好きな遊び場所はどこにありますか? そこへの交通手段は何ですか?
・遊び場で体験したイヤだったことは何ですか?

アセスメントでは、以下のようにきめ細やかに調査しています。

・子どもたちがどこで、どんな風に遊んでいるか
・そこには大人が設置した場所だけでなく、自然の中や大人のいない場所も含まれているか
・アクセスに問題はないか、遊ぶときに困っていることはないか

さらに、自治体はこれらの質問から、何が成果をあげているか、そして更なる課題を見つけ出し、次に向けた行動計画を策定して公開する義務がある、というのがポイントです。

たとえば
「大きな公園を作ったが、特定の地域の子どもたちからはあまり利用されていない原因がアクセスの悪さにある」ことが分かったら、公園を巡回するバスを走らせた方がよいのでは?

「田舎の道ほど、車が高速で走り抜けて危険だから子どもたちだけで遠くに行かせてもらえていない」ことが分かったら、→自動車の速度を落として歩行者にやさしい施策を取ろう!

といった具合です。

子どもについての政策というと、強い立場の者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、その意思を問わずに介入、干渉、支援することをパターナリズム(paternalism:家父長的態度)と呼びますが、イギリスのこうした取り組みは、パターナリズムの対極にある、市民=子どもたちの事実や実感に耳を傾けた結果を実行に移していく施策と言えます。

子どもの遊びのことは、公園や施設などの遊び場の設置やイベント開催などに限ったせまい問題としてとらえず、まちづくりや子育て支援、子どもに関わる仕事に携わる人の育成、市民の啓発など多岐にわたる施策を講じていくことが必要です。もちろん、必要な予算をつけるということについては簡単なことではありませんが、それが国の未来のために重要なことだという共通の認識があれば、不可能ではないのではないでしょうか。

――今後、日本が子どもの遊び環境を国として整備していくために必要なことは何だと思いますか?

(嶋村)『遊び』という日本語には、『運動』『スポーツ』に見られる「活動」や「ゲーム」も含まれているために難しい点がありますが、「子どもが本能的な自由意志で遊ぶことができる」という意味での「遊び」の環境について、日本ではまだ評価基準が確立されていません。

まずは、国連子どもの権利条約に基づいて「子どもが遊ぶとはどういうことか」について社会としての解釈を定めて、現状を評価するための指針を作り、子どもたち当事者の声を丁寧に聞きながら、今後何をすべきかを決めていける仕組みづくりを進めていくのがよいのではないでしょうか。また、そのための定義や指針の策定に、私たちのような市民団体も積極的に参画していけるようになるとよいと思います。

実際に、イギリス各国では子どもが遊ぶ環境の向上に向けて活動してきた中間支援組織が自治体のサポートに入り、調査や草案の策定、全国規模の研修などを担っています。日本でも、今回の法成立をきっかけに、子どもが豊かに遊べる社会に向けて大きく動き出すことを期待しています。

次回
第2弾「子どもを体験から遠ざける コットンウールカルチャーって?

●嶋村 仁志●
一般社団法人TOKYO PLAY代表
一般社団法人日本プレイワーク協会代表、 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会理事、IPA日本支部運営委員、大妻女子大学非常勤講師。
2010年、TOKYO PLAY設立時より代表に就任し、2005年から2011年にはIPA(International Play Association・子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア副代表を務めるなど、国内外で活躍。
共著に『子どもの放課後にかかわる人Q&A50:子どもの力になるプレーワーク実践』(学文社)
翻訳本『インクルーシブって、なぁに?〜子どもを分けない場づくり はじめの一歩〜』(著フィリップ・ダウチ/TOKYO PLAY)が発売中。

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