【シリーズ:社会として子どもの「遊ぶ」を保障する】イギリス・ウェールズでの取り組み その1

TOKYO PLAYのビジョンである「すべての子どもが豊かに遊べる東京を」。
実現に向けて、私たちの社会はどんな道を進んでいったらよいのでしょう?

こども家庭庁創設の準備が進められる中、子どもの遊びの環境整備は、日本政府としても中心課題として置いてほしい大きなテーマのひとつです。
そのヒントとなる参考事例として、TOKYO PLAYの前身となる「子どもの遊びと大人の役割研究会」の時代から、1990年代後半からのイギリスでの動きを追いかけてきました。

ご存じの方も多いかと思いますが、イギリスはグレート・ブリテン連合王国(United Kingdom・UK)とも呼ばれ、3つの国(イングランド・ウェールズ・スコットランド)と1つの地域(北アイルランド)で成り立っている国です。
外交や防衛などについてはひとつの国として動いていますが、国民の社会生活の様々なことはそれぞれの議会政府が独自に決めて動いています。
今日は、その国の1つ、ウェールズ(Wales)の話を紹介します。

子どもが遊ぶ環境の整備は国の役割

実は、ウェールズは人口320万人(イギリス全体:6,600万人)という小さな国にも関わらず、2002年に国としては世界初となる「子どもの遊びに関する政府指針(National Play Policy)」を定めた国なのです。
その後、その指針は、2006年に「子どもの遊びに関する政府戦略と行動計画(Play Strategy and Implementation Plan)」としてより具体化され、2010年には「子ども家庭法(Children and Family Measure)2010」の一環として子どもが遊ぶ環境を向上させる義務(Play Sufficiency Duty)が盛り込まれることになりました。

こうした一連の流れは、

  • 遊ぶことは、子どもの身体や心、社会生活における育ちや幸福に決定的な意味を持つ、本能的な「いのちのしくみ」であること
  • 現代のくらしの中では、都市生活者、地方生活者に限らず、様々な環境的要因から、遊ぶ機会を子どもが充分に確保することが難しくなっていること
  • 子どもが充分に遊ぶ機会を確保するための環境整備は、社会としての課題であり、政府として取り組むべきであるということ

が前提になって生まれたものです。

子どもの遊びに政府が取り組む?

ウェールズが2002年に世界で初めて「子どもの遊びに関する政府指針」を定めたときの記者会見上で、ある記者から質問があったそうです。
「他の国々では、食べるものにも困っている子どもたちがいるというのに、子どもの遊びで政府指針を出すなんて、ぜいたくなのではないですか?」

その質問に対して、その当時の大臣が「確かにこの国では、子どもが食べるものにも困るような貧困はないかもしれない。けれども、子どもたちは『経験の貧困』に苦しんでいる」と答弁したと言われています。
この政府方針の裏には、「ウェールズにおける遊びに関する政府方針の存在意義(Rationale of National Play Policy for Wales)」(2000年)という前提条件となる文書の存在がありますが、それは別の機会に紹介します。
いずれにしろ、子どもが遊ぶことはそれぞれの子どもだけでなく、社会に取っても重要なものとして、政府が取り組む価値があるということを宣言することになりました。

▶︎その2

書いた人:嶋村 仁志
一般社団法人TOKYO PLAY 代表理事
一般社団法人日本プレイワーク協会代表/International Play Association日本支部運営委員/NPO法人日本冒険遊び場づくり協会理事/大妻女子大学非常勤講師
1995年、英国リーズ・メトロポリタン大学ヘルス& ソーシャルケア学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年より、羽根木プレーパーク、川崎市子ども夢パークなど、冒険遊び場のプレーリーダー(プレイワーカー)を歴任し、国内外で冒険遊び場の立ち上げや子どもの遊びに関わる人の研修や啓発に携わっている。
『〜バスカーズ・ガイド〜 プレイワーク きほんの「き」』発売中。『インクルーシブって、なぁに? 〜子どもを分けない場づくり はじめの一歩〜』翻訳中。

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