【海外遊び場紹介チャンネル】ドイツ編 エピソード2 「Selbstentscheidung【日本語訳 自己決定】」

TOKYO PLAYが持っている国内外のネットワークを活かして、海外での遊びに関する取り組みを紹介していきます。
文化や社会の背景によって、遊び場の考え方や作り方は国によってさまざまです。
日本でよく見る遊び場が、他の国ではどのように作られているのかを知ることで、普段とは違った新しい発見があるかもしれません。

この企画が、みなさんにとって新たな気づきのきっかけになれば幸いです。

エピソード1はコチラから

【海外遊び場紹介チャンネル】ドイツ編 エピソード2 「Selbstentscheidung【日本語訳 自己決定】」

初日の催し物はいろいろ考えた末、ぶんぶんゴマ工作、笹舟作り、タンポポの風車にしました。うまくいくか心配していたのですが、そもそも経験のないことを外国でやるのだから何が成功なのかが分からない、つまり失敗のしようもないと最終的には開き直ることができました。

 

 

園内に入ると責任者のFさんがあたたかく迎え入れてくれ、「どこで催し物をやりたいですか?」と聞かれました。私は大きなくるみの木の下にあるテーブルとベンチを会場に選びました。「テーブルクロスは必要ですか?」とも聞かれたので念のため借りてテーブルにかけました。

その後Fさんは「何かあったらなんでも言ってね」と声をかけ自分の仕事に戻っていきました。あとは1時間に1度くらい様子を見に来る程度でした。初回から完全に催し物を一任されたことは、わたしにとって面談に引き続き予想外の展開でした。
ドイツ語の補助で入ってくれるはずだったボランティア(FÖJ【 Freiwilliges Ökologisches Jahr:環境ボランティア研修生】)もほかの仕事があったのか結局現れませんでした。

 

遊びでつながる

催し物は、ぶんぶんゴマが大盛況で、ドイツの子も日本の子も工作してくれました。
一度にみんなで工作するのではなく、気が向いた子どもたちがばらばらに来るので、子どもによって工作の進み具合が違ってきます。なので、子どもたちがたくさん来ると私はてんやわんやになりました。ドイツの子も日本の子も入り混じって座り、次々に「次はどうするの?」と聞いてくるので、結果的には日本語とドイツ語が混然一体の言語環境になっていました。

私ひとりではもはや説明が追い付かず、気が付いたら、私の小5の娘が言葉の壁を越えドイツの子にぶんぶんゴマの作り方を説明していたりしました。
工作は作るものがあり、やり方を見せればいいので、あまり言葉の壁が問題にならない遊びだなと感じました。

あとは年長の子がドイツ語の表現を逆に教えてくれたり、年少の子もわたしのつたないジェスチャー頼りの説明を一生懸命理解しようとしてくれました。なにより子どもたちが突然やって来た外国人である私を身構えることなく受け入れてくれたことが、とてもうれしかったです。国籍問わず子どもたちの方が大人よりも先入観がないので(もちろん個人差はありますが)自分とは国籍がちがう大人が来てもあまり変わりなく接してくれるなと感じました。

「Selbstentscheidung.自分で決めるように伝えてください」

そんな中、6歳ぐらいのドイツの女の子がやってきて、「砂遊びをしたいから靴を脱いでいいですか?」と聞いてきました。どう答えるのがこの冒険遊び場では一番よいのか分からなかったので、Fさんに聞くと

「Selbstentscheidung.自分で決めるように伝えてください」と言われました。わたしの持っていた答えは「脱いでいいよ」か「脱がないでね」だけだったので、その前段階から自分で判断させる、しかも6歳の子に、ということに目の覚めるような驚きがありました。

もちろん冒険遊び場の砂場が、素足で遊べるように整備されているからこそできる回答です。しかし靴下を脱ぐという日常の小さなことから、子ども自身の気持ちや、意志を大切に自分でどうしたいのか決めさせる姿勢はわたしには未知のものでした。

このように小さなころから、子どもの意志が大人と同様に尊重される環境があるからこそ、自分の考えをもった大人に育っていき自立した市民が育つんだなと思いました。

外国人であっても初回から催し物を自立してやりきらなければならない環境は予想外でしたが、「Selbstentscheidung自己決定」つまり自分で実施すると決めた催し物を自立してやりきるのはドイツでは普通のことなのだと思い至りました。自分の思う通りのイベントをする裁量が与えられている代わりに自力で仕事をやり抜く自主自立の態度が求められることを実感した初日でした。

 

次回は冒険遊び場での子どもたちの様子について書いていきたいと思います。

 

 

*ドイツ語の訳、発音については
在間 進 編集責任『アクセス独和辞典 第4版』三修社、2021を参照。

FÖJ( Freiwilliges Ökologisches Jahr)については以下のホームページを参照
https://foej.de/en/start-eng/

 

ライター
岡田真理子さん
ご主人の仕事の関係で2021年に家族と共にドイツに駐在し、現在ドイツ滞在4年目を迎えている。ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州の州都デュッセルドルフのオーバーカッセル冒険遊び場で Praktikum(実習生)として活動中。
ドイツの冒険遊び場で働く中で経験したことを子どもの遊びの活動に携わっている方々にエピソードごとにお伝えできたらと思い、今回のコラムを執筆している。

 

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