【海外遊び場紹介チャンネル】ドイツ編 第7弾 Kinderstimmen sammeln【日本語訳:子どもの声を集める】

 私がドイツの冒険遊び場で実習生になってから1年半経ちました。今回は最近の活動で印象に残った、子どもたちの意見を集める企画について書いていきたいと思います。

 ある日、冒険遊び場の掲示板にMitmachen am Abenteuerspielplaztz!(冒険遊び場に参加しよう!)というポスターがあるのを見つけました。何のお知らせだろう?と思って見てみると、冒険遊び場でやってみたいことのアイデアを募集していること、最終的にどの案を実現するかは子どもたちによる投票で決定すると書いてあります。


 私は子どもたちの意見を聞いて投票するというのはすごくおもしろい企画だなと思いました。意見募集の締め切りは明後日。それなら今日中に提出しないといけないなと思い、すぐに子どもたちの意見を聞いて回りました。ドイツ語のポスターに書いてあった企画を日本語に訳して子どもたちに説明したあと、「冒険遊び場でやってみたいことはあるか?」と聞くとみんな私がメモに書ききれないくらいたくさんの意見を出してくれました。「池をきれいに掃除して泳げるようにしたい。」「植物を自分たちで育てたい。」「馬に乗りたい。」「ミニ運動会をやりたい。」「新しいゴーカートの道を作りたい。」など大人の私には思いつかない意見ばかりでした。聞いて回った1年生、3年生、5年生のグループ、すべての子どもたちがワクワクではち切れそうになりながら、口々に案を出してくれました。


 子どもたちの意見を聞いた後、責任者のぺダゴーゲ(Pädagoge)のLさんに「日本の子たちの意見も書いていいか?」と確認したら「この企画の責任者の実習生Pさんに聞いてね。」と言われ、Pさんに聞くと「もちろん大歓迎だよ。」といってくれました。みんなの案をドイツ語に訳してポスターに書き、無事期限内に提出できました。

 その数週間後冒険遊び場にいくと、掲示板にDEINE STIMME FÜR DENABENTEUERSPIELPLATZ!(冒険遊び場へのきみの声(ドイツ語のSTIMMEは声と意見両方の意味があります)というポスターが貼ってありました。
 よく読むとDer Abenteuerspielplatz gehört euch-ihr habt die Ideen! (冒険遊び場はきみたちのもの、きみたちにはアイデアがある!)と書いてあります。その次にIch helfe euchdabei,eure Ideenumzusetzen(ぼく[担当のPさん]がきみたちのアイデアを実現するのをお手伝いする)と書いてあり、子どもたちの案を実現するために大人が必要な力を貸してくれることがわかります。またPさんが子どもたちの意見から選んだ実現可能な以下の4つの案も書いてありました。

・ゴーカートにランプをつける
・自作のおもちゃをつくる
・プールをきれい&素敵にする
・ボルダリングの足場を作る

 プールをきれいにする案は日本の子のアイデアなので採用してもらえてうれしかったです。


 またポスターに室内に投票所があるから投票してね、と書いてあるので見に行くと大人の選挙の投票所を模した自作の投票所がちゃんとありました。机の上に投票記載台(プラスチックの箱で代用)があり、記入箱の中に投票用紙(小さな白い紙)があります。子どもたちはひとりずつ椅子に座って投票用紙に自分が選んだ案を書き、記入箱の上にある投票箱に入れるという仕組みです。
 私は子どもたちに投票所があることを説明し投票してもらいました。子どもたちは子ども用の投票所で真剣に投票してくれました。


 今回の経験で一番驚いたのは、私が子どもたちに意見がないか聞いたとき、どの子もいきいきと自分の案や冒険遊び場への意見を出してくれたことでした。自分たちの考えを大人に聞かれるのが、子どもたちにはこんなにうれしいことなのだと実感しました。
 また子どもの案を投票という「実社会のしくみ」を通して集めるという方法に感銘を受けました。子どもの意見を大人が集め、身近な環境である冒険遊び場を変える手伝いをするというこの企画に、社会に自分が影響をおよぼすことができるという、自己効力感が育つ土台を見せてもらいました。この身近な環境に自分が影響を及ぼすことができるという経験が萌芽になり、自分の意見で社会を変えることができると信じられる大人を育て、社会活動や、政治への関心が高いドイツの市民社会を成り立たせているのではないか、と私は考えています。さらにいえば、この企画は地域における子どもの自治活動(ドイツでは子どもの権利条約に基づく子どもの参加(Partizipation)という呼び方が一般的です)でもあ
るようです。


「冒険遊び場はきみたちのもの、きみたちにはアイデアがある!」というポスターの言葉は冒険遊び場の主人公(主権者)は子どもたちということをわかりやすく表明しています。この言葉は大人に比べて持っている力(権力)が弱いと思われがちな、子どもの力を強めるエンパワーメントであると考えることもできます。さらに大人がきみたちの案を実現するのを手伝うという言葉、これは子どもに大人の力を分けることを意味しています。大人が子どもに対してもっている大きな力(権力)を子どもたちに分配するパワーシェアリングの実践とも考えることができそうです。
 これは個人的な感想ですがドイツの冒険遊び場のスタッフは大人が子どもに対して持っている大きな力(権力)を自覚して活動内容を決めているような気がします。


 ドイツの冒険遊び場では通常の企画なのかもしれませんが、わたしや日本人の子どもたちにとって新鮮で貴重な経験になりました。
 掲示板のポスターで偶然知ったひとつの企画からドイツの子どもたちが身近な環境に自分が影響を及ぼすことができるという自己効力感を自然な形で経験していることを垣間見ることができました。日本の子どもたちも自分の力で身近な環境を変えられるという実感が得られる経験、いいかえれば小さな自治で感じる喜びを身近に体験できたらいいなと思っています。


私も企画を手伝いたいとPさんにお願いしているので、どの案が選ばれ、どんな企画が冒険遊び場で行われるのか今からとても楽しみです!


TOKYO PLAYが持っている国内外のネットワークを活かして、海外での遊びに関する取り組みを紹介していきます。
 ドイツ編では、オーバーカッセル冒険遊び場で Praktikum(実習生)として活動されている、岡田真理子さんが現地の様子を執筆しています。

この企画が、みなさんにとって新たな気づきのきっかけになれば幸いです。

第1弾第2弾第3弾第4弾第5弾第6弾はコチラから。

岡田真理子さん
 ご主人の仕事の関係で2021年に家族と共にドイツに駐在し、現在ドイツ滞在4年目を迎えている。ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州の州都デュッセルドルフのオーバーカッセル冒険遊び場で Praktikum(実習生)として活動中。
 ドイツの冒険遊び場で働く中で経験したことを子どもの遊びの活動に携わっている方々にエピソードごとにお伝えできたらと思い、今回のコラムを執筆している。

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