オンライン学習会①「運動×屋外公共空間の活用」


【日 時】2021年1月17日(日)10:00〜11:45

【ゲスト】石田 祐也さん

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中で、こんな社会状況だからこそ大切にしたいこと・できることを考える学習会を開催しました。
第一回は、建築家の石田さんをお招きして「運動×屋外公共空間の活用」について学びました。

ゲストのご紹介

 建築家(合同会社ishau代表)(一社)ソトノバ 共同代表理事

 1988年三重県生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。株式会社ヌーブ一級建築士事務所を経て現職。
 ストリートを主としてパブリックスペースを活用した都市再生手法に関する研究とともに、建築やパブリックスペースの設計を行なう。東京と四日市という、都心と地方都市の二拠点をベースに、空間の公共性を再定義するプロジェクトを手がける。
 主な実績に「見えないテーブル」「矢吹町第一区自治会館」「Park(ing)Day」「立川駅南口高架下TERASUプロジェクト」など。著書に『ストリートファイト 人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』(翻訳/学芸出版社, 2020年9月)、『コンパクト建築設計資料集成[都市再生編]』(協力/丸善, 2014年3月)。


ゲストの講演のダイジェスト

「パブリック(公共性)」とは、official、common、open

  • 私がパブリックスペース(公共空間)だと思うのは、多様な人間が多様な過ごし方を出来る空間。自分の過ごし方を自分で選択することができる。選択肢が多様にあるということ。
  • このパブリックスペースに使われている「パブリック」という概念については、斎藤純一先生が「公共性」という本で簡潔にまとめている。
  • 1つ目がofficial。国家に関係する公的なもの。日本の公共施設、例えば図書館であるとか自治体が持っているもの。日本で言うと割と管理上公的なものにパブリックという言葉を使う時に、このofficialの意味で使われる。
  • 2つ目がcommon。特定の誰かじゃなくて全ての人に共通しているという概念としての公共性がある。
  • 3つ目がopen。特にこのオープン性が、日本のパブリックスペースを考える上では大事だと考えている。誰に対しても開かれている、ある特定の空間を使う時に誰でもどのような選択肢も取ることができるというようなこと。

パブリックスペースは人間の舞台である

  • 日本ではパブリックスペースが消されていった歴史がある。
  • 新宿駅の西口の地下広場。もともと西口地下広場として音楽を演奏している人、デモをしている人など誰もが活動できた場所が、1969年に突然に西口地下通路に変わった。「通路」に変わったことで道路交通法が適用されて、集会することができなくなった
  • 渋谷だと原宿のホコ天。1977年から表参道が歩行者天国となった。山手線のJRを挟んで代々木公園側の代々木署が管轄していたエリアでは、ロックバンドやローラー族、竹の子族などの活動が許容されていて、そこで原宿のカルチャーが育まれた。その後の騒音やゴミ、治安の問題に発展し1996年に中止となる。
  • それ以外にも1960年代から旭川、1970年代に銀座や新宿、原宿、1980年代の中盤まで全国で歩行者天国が誕生していて、こういった音楽やファッションなどの文化を発信してきた場所がパブリックスペースで生まれてきたという歴史はきちんと評価はしないといけないし、そういったものが日本から失われつつあるということも指摘しておきたい。
  • 1980年代中盤を境に騒音や環境の問題、事件が起こったりしたことで、最盛期からすると半分ぐらいに歩行者天国は減っていったが、2000年代からオープンスペースの重要性が全国的にも認識され、歩行者天国も再評価され始めている。

世界は屋外へ向かっている

  • コロナ禍において、東京は新宿、銀座、秋葉原の歩行者天国を一旦中止にしたが、諸外国と逆行している。パブリックスペースとしての歩行者天国の位置づけでは、今ホコ天が持っている役割・機能が十分に認識されてない。
  • パリでは徒歩か自転車で家から15分圏内のところに生活に必要なものが全てある都市、「15分都市」を目指すという政策が動いている。イメージ図では元々道路だった場所には自転車で宅急便を運んでいる姿があり、ベビーカーが安心して通れるような道になっていたり、もともと植栽帯だった場所がデッキスペースになっている。グリーンインフラと呼ばれるが、植栽帯がきちんと道にあって小川のようなものが流れていたりとか、今までの道のイメージとはもう一線を画すようなこういった町を目指すことを標榜している。
  • 他にもロンドンやニューヨークなどの都市ではオープンストリートと言って、特に今は飲食、原則屋内での飲食を禁止にして車道を歩行者に開放してソーシャルディスタンスの確保をはかる。特にニューヨークは路肩での飲食をとても進めていて、市の方でもガイドラインを設けていたりする。屋外空間に対してレストランなどのいわゆるローカルビジネスを支援する役割も今のパブリックスペースに求められている。
  • 自転車の需要も非常に高まっている。日本の場合は安全な自動車に乗ったりだとか、あるいは外出するのは完全に止めるっていうような感じになっているが、特にベルリンやボゴタでは、自動車をなるべく減らして自転車に移動させるなど、このコロナを経て交通網に対しても非常に影響が及んでいる。
  • 日本でも国土交通省が「お店の前の空間、歩道を使っていいですよ」という指針、道路占用許可基準の緩和を2020年6月5日に出した。
  • いち早くその取り組みを社会実験として実施したのが浜松市。浜松では6月19日からまちなかオープンテラスという社会実験を始めた。市の産業振興課がワンストップの窓口になり、さらに現地での協議を重要視し、市の担当者が現地を訪問し、現地での議論で完了させなるべく机上の議論を少なくしていったということが特徴的。

道路空間の機能には法令等で定められていないコミュニティ機能がある

  • 道路空間が通常担っている役割に交通機能と空間機能がある。道路構造令という法令の中で整理されている。交通機能は自動車・自転車・歩行者などの利便性を高めるために、通行、アクセス、滞留できることいった機能。空間機能は市街地を形成するために物理的な空間であったり、延焼を起こさないために広い道が物理的に必要なので、その機能。
  • ホコ天や遊戯道路などの事例から見てもパブリックスペースとしての道路空間においては、2つの機能に加えて、コミュニティ機能が大事ではないか。他者・地域との交流や、あるいはレストラン、ローカルビジネスの支援であったり。しかしコミュニティ機能は、道路構造令や他の法律等で定められていないため、自発的に意識的に自らの手で獲得しようとしないと手に入らないもの。

Park(ing)Dayを通して自発的に意識的に自らの手で獲得する「プレイヤー」づくり

  • 自発的に意識的に自らの手で獲得するためには、何か自分の手で動かしてみないと分からない。そのため、ソトノバではPark(ing)Dayなどを通じてプレイヤーになることを意識的に行ってきている。
  • Park(ing)Dayはサンフランシスコで2005年にPark(ing)というアートインスタレーションがスタート。駐車スペースの一画に芝生を敷いて、木を持ってきてベンチを置いただけで、駐車するparkingから公園のparkに変えるというダジャレのようなもの。その様子を写した写真がバズって、2006年から世界中の都市でこれと同じような取り組みが行われるようになった。元々9月の第3金曜に行われたこともあって、毎年9月の第3金曜日に世界中の都市で行われる取り組みになっている。
  • マニュアルがオープンソースとしてインターネットに上げられているので、それを見ながらソトノバで2017年から4年やってきた。2019年は渋谷区の宮益坂中腹の渋谷郵便局前で実践した。
  • 2020年は街に出ていく人を全国に広げたいという思いから、コロナの状況もあったので、オンライン講座でPark(ing)Dayのノウハウを学ぶスタジオを開いた。全10回の講座でPark(ing)Dayの本質的な意義とは何なのか、やるための準備などを学ぶ人材育成の場を作り、43名が参加。これを元に、2020年は全国で6都市、横浜、八千代、四日市、長浜、倉敷、竹原でPark(ing)Dayを開催するに至った。
  • Park(ing)Dayというのは駐車スペースを小さな公園に変える、つまり車の空間を歩行者の空間に取り戻す、解放するというようなメッセージが込められている。

渋谷区のおとなりサンデーでストリートピクニック

  • 私自身も渋谷のストリートでピクニックをやってみたことがある。
  • 渋谷では、2017年からおとなりサンデーという取り組みが始まっている。6月の第1日曜日に近所の人と何か企画をして、公園や道路で、例えばパーティーをやったりだとかができる。
  • 実際に選んだのがこの宇田川遊歩道のマンションの前。マンションの方々に了承を得て、実際にやろうとなった時に使用許可と占用許可という2種類の資料を管理者に出す必要があった。使用許可は警察に対して、占用許可は自治体に対して出す。この時はこの場所が道路扱いではなかったので、占用許可だけでよいという話になった。
  • 先のPark(ing)Dayの時も、実際にやろうとするとこの資料準備がかなり大変だが、このおとなりサンデーという枠組みを使うと、それがとても楽になったのが印象的だった。この取り組みは一市民が実際に街中で何かやりたいとなった時にとても使えるものだと思った。

小さな取り組みから徐々に大きな計画に結びつけていくタクティカルアーバニズム

  • Park(ing)Dayは1日限定だが、数ヶ月や年単位で常設されるパークレット(Parklet)という取り組みが日本でも増えてきている。Park(ing)Dayをやってみて、その場所が居場所を作るのにも最適だし、ローカルなビジネスを支援する意味でも可能性や課題が見えてきた時に、その次にハード的にきちんと整備した方がいいのではとパークレットに繋がっていた。さらにその次のステップとして、ストリート自体を作り変えようという話になるかもしれない。
  • 小さいことから始めて、徐々に大きな構想BIG picture につなげていくというような流れが、最近の日本の都市計画でも意識をされている。まちづくり・都市計画の中では、戦術的な都市計画=タクティカルアーバニズムと言われる。
  • LEARNその場所について学び、学びからIDEASを構想して、実際に何かBUILD建ててみて、それを事業化PROJECTする。さらに事業化したものに実際にどのような効果があったかをMEASURE計測をして、計測から得られたDATAを、さらにもう一度LEARNに結びつけていく。このサイクルをどんどん回していって規模を拡大させていくイメージ。

渋谷どこでも運動場プロジェクトは可能性がいっぱい

  • 運動、体を動かすことができる物理的な空間を、体育館などの屋内ではなくて屋外に配することのメリットは多い。例えば偶発的に他の人と交流ができる機会が生まれやすくなることや、三密、特に密閉空間を回避することができる。
  • 昔の道遊びみたいなもの、ご老人の方が孫世代にちょっと遊びを教えるような多世代の交流、少し懐古的だけど半未来的みたいな風景が、どこでも運動場プロジェクトでは見られやすい
  • 屋外の運動の方が、体のコンディションにも心のコンディションにもメリットがあり、良くなることが分かっている。この屋外パブリックスペースを使う形、そして運動という誰もが入りやすい切り口がフックになっているこのプロジェクトには非常に可能性を感じる。

後半の質疑応答・トークセッションでは、渋谷区で実施したPark(ing)Dayや、これまでの渋谷どこでも運動場プロジェクトで実際に行ってきた道路を使うための許可申請についての話、実際に市民が「やってみたい」と思った時に手助けをする中間支援組織の重要性についてなどが話題になりました。

《最後の一言より》

石田さん
 僕も最初は街中で企画を初めてやる時には、何からはじめていいかわからないし緊張もしていたけど、実際にやってみると街を見る目がとても変わりました。
 Park(ing)Dayクラスでも、2020年の受講生の中にはほとんど専門家はいなくて、例えば商店街の方や子ども会の会長さん、あとは福祉施設に働かれている人たちも取り組んだけど、「Park(ing)Dayを街中でやったことによって、自分たちがここに暮らしてるという自意識が芽生えた」ということを言っていただいた。シビックプライドといった言い方をしますが、その街で暮らしているという意識を醸成できるのではないかと、そのコメントを聞いて強く感じることができました。
 あと、単純に顔見知りが増えるということも自分が暮らす上では自分の人生が楽しくなるのでおすすめです。自分の住んでいる地域でもアクションしたことで、挨拶ぐらいはできる仲間が増えました。一週間に1回ぐらいは誰かに会って、「あ、こんにちは」みたいな、それがちょっと気持ちいい。その関係性は自分から何かアクションを起こさないと、なかなか結べないと思うので、そういう関係性づくりの上でもやってみるといいと思います。

TOKYO PLAY嶋村(ホスト)
 町に知り合いがいないところから増えていくというのは、僕もすごく実感しているところです。僕も住んでいる地域で道での取り組みをしている時に、自治会のおばあちゃんのところにご挨拶に行ったりとかしていて。子育て中なので2歳の娘を連れていっていたら、別の打ち合わせの時に「娘はどうしたの?」とそのおばあちゃんに言われて。「別にあんたに会いに来るわけじゃないのよ」って。そういう会話ができる人が自分の街にいるんだという、自信というかに、こういう取り組みつながっていくのだなと思っていたりしています。
 そういう「楽しいよね」というコミュニティーが、全国に広がっていったら本当にいいなと思います。TOKYO PLAYが伴走で支援するので、気軽に声をかけてください。


石田さんが共同代表を務めておられる一般社団法人ソトノバさんは、さらにオープンスペースの活用を専門に活動されている団体なので、興味がある方は是非アクセスしてみてください。