連続記事③実施グループインタビュー


2018年度より開始した渋谷どこでも運動場プロジェクトも今年で5年目を迎えました。途中、世界を襲ったコロナ禍により取り組みを控える時期が続きましたが、今春から徐々に開催も増え始め、またこれまで溜まっていたエネルギーが噴き出したかのように、実施してみたいという相談も増えてきました。
このタイミングで、改めて渋谷どこでも運動場プロジェクトの趣旨を広くお伝えするため、4回に渡り記事を公開していくことにしました。

その他の記事
①渋谷区 長谷部区長 × TOKYO PLAY 嶋村仁志 対談
②TOKYO PLAY 代表理事 嶋村インタビュー
④海外(イギリス)の先進事例紹介

第3回は、神宮前地区で区の施設を活用してどこでも運動場に取り組んでいるKIDSmentPARKさんに、どこでも運動場を始めた経緯や、実施までの経過、また取り組んでみての感想などについてお伺いしました。

※写真は全てTOKYO PLAYによるものです。

− まずは団体について教えてください。

KIDSmentPARKは渋谷区の神宮前地域で子育てする母親5人がつくった有志の団体です。設立のきっかけは男の子2人を育てている一人の母親の「神宮前地区には子どもの遊ぶ場所が少ない」という問題意識です。実際調べてみると神宮前地区は区内の他の地区よりも公園の数が少なく、さらに総面積も狭くて、少し子どもを遊ばせづらい公園が多いのです。それに対して、このお母さんは2019年4月の区議会議員選挙の時に、「子どもの遊び場所が少ないからなんとかしてほしい」というチラシを作って、街頭演説をしている立候補者に対して逆演説をしていました。その姿に共感した人たちが集まって動き出したのがKIDSmentPARKです。正式に団体として設立したのは2019年12月で、どこでも運動場の実施に合わせてとなります。
立ち上げてすぐに新型コロナウイルス感染症が拡大して、しばらく活動ができなかったですが、コロナが落ち着いてからは、どこでも運動場も含めて年に6回程度子どもを対象とした防災やものづくりのワークショップやイベントを開催したり、不定期ですが千駄ケ谷の社会教育館の体育館を使って、卓球など簡単に体を動かせるように場所の開放をしています。

※詳しく知りたい方はKIDSmentPARKさんのブログをチェックしてみてください。

− 渋谷どこでも運動場プロジェクトに取り組むことになった経緯を教えてください。

団体立ち上げのきっかけとなった区議会議員選挙で、チラシを渡した候補者の一人が当選されて、選挙後に「話を聞かせてほしい」と声をかけられ、お話をする機会を持ちました。そこで、元々の「子どもの遊べる場所がない」という問題意識などを伝える中で、一つの可能性として渋谷どこでも運動場プロジェクトのことを教えてくれて、さらに企画・運営を担当しているTOKYO PLAYさんとつないでくれました。
TOKYO PLAYさんから渋谷どこでも運動場プロジェクトの詳細を聞いてみて、プロジェクトを通して自分たちの抱える問題意識の解消につながりそうだったこと、そしてちょうど自分たちの子どもが実際に体を動かしたいという意欲に溢れる年代だったというタイミングも重なって、どこでも運動場に取り組んでみようと思いました。

− 実際に「やってみよう」と決めてからは、どのように準備をすすめてきましたか?

最初は何もわかっていなかったので、TOKYO PLAYさんにかなり助けてもらいました。
神宮前3丁目にあるケアコミュニティ・原宿の丘という区の施設の屋外スペースを使わせてもらえるといいなと思っていたのですが、どうすれば使わせてもらえるのかとか、地域との関係性とかもあまりわかっていませんでした。

ケアコミュニティ・原宿の丘。旧原宿中学校の校舎を改修して、地域包括支援センター、教育センター、地域コミュニティの拠点機能を備えた複合施設。

原宿の丘には地域住民の方が施設でいろいろな活動ができるようにコーディネートしたり、講座を開いたりしている原宿の丘コミュニティ委員会という組織があります。まずはその委員会の会長に相談をすることにしました。KIDSmentPARKメンバーの一人がコミュニティ委員会の会長さんを知っていたので、相談に伺ったところ応援をいただけることになりました。
その他にも高橋さんに「地域の中にある施設で行う活動なので、町会の方にもご理解をいただいておいたほうがいい」と教えてもらって、コミュニティ委員会の会長さんにお願いして、原宿の丘がある地域の町会長をご紹介いただき、ご挨拶に伺いました。実は、メンバーの一人が町会長さんとご近所で普通にご挨拶する関係だったのですが、この時はじめて町会長だったということを認識しました。いかに自分たちが地域のことを知らないかということにも気づいたのはこの時ですね。
一方で、使わせてもらいたかった屋外スペースはコミュニティ委員会さんの管轄外であったり、施設の中には地域包括支援センターや教育センターなどもあって、結果としては区役所の中の施設の運営を担当している部署に申請が必要であることが分かりました。それらの相談や調整の際に、大体TOKYO PLAYさんが間に入ったり同席をしてくれました。

− TOKYO PLAYも最初は手探り状態で、コミュニティ委員会の会長さんや、渋谷どこでも運動場プロジェクトの主催であるスポーツ振興課の担当者とも相談しながら調整をしていました。それ以外の部分の準備はどうでしたか?

なにしろイベントとかを主催するのも初めてで不安だったので、初回はKIDSmentPARK単独ではなく、TOKYO PLAYさんと、渋谷どこでも運動場プロジェクトの協力団体である渋谷の遊び場を考える会さんにもお願いして、3者の共催という形にしました。
実施する内容はその3者で何度か打ち合わせをして、とりあえずプロジェクトで貸出している道具を使うことと、あと小学校に相談をしたら竹馬や羽子板が借りられるかもしれないという話になった時は「いいね、いいね」と盛り上がりましたね。実際当日は大人も楽しそうに遊んでいました。

広報は、自分たちでつくったチラシで行いました。町会の掲示板に貼らせていただけるように町会長さんにお願いをしたり、あとは自分たちの子どもが通っている近隣の小学校や幼稚園、こども園にお願いして配布や掲示をさせてもらったりしました。

他にも、渋谷どこでも運動場プロジェクトでは保険に加入する必要があるのですが、初回に関しては共催だったのでTOKYO PLAYさんに手配をいただきました。ちなみに2回目以降は自分たちで社会福祉協議会のボランティアの行事保険に加入しています。
最初にTOKYO PLAYさんにプロジェクトのお話を聞いたのが7月で、12月の実施までの間で、最初はとりあえず原宿の丘を使わせてもらうことができるかの調整のために相談をして回って、実際にやる内容やそのための準備については1ヶ月半ぐらい前に打ち合わせをして、あとはメールや電話でも相談しながら進めたと思います。

いざ当日ですが、思っていた以上に多くの人がきてくれて盛り上がりました。子どもだけでなく、チラシを見て一人できたというシニアの方もいて、地域でこういう機会が求められていることにも気づきました。子どもが笑っているいい顔がいっぱい見られたし、話したことがない子どもともいっぱい話せました。道ですれ違っただけだと話すこともないけど、遊びや運動を一緒にすることで、話をすることができることも分かりました。私たちも体を動かすのが楽しかったです。

1回やってみて大体の規模感や準備の流れも掴めたので、2回目からはどこでも運動場に加えて、本の交換会や、SDGsについて考えるきっかけとして牛乳パックでバックをつくるワークショップなど、他にも自分たちがやりたいことを盛り込んでいきました。2回目はテニスコートも使わせてもらえるように相談をして、みんなでテニスができたのも楽しかったです。

これまで4回開催してきましたが、回数を重ねるごとに力の使い方がわかってきて、全部を全力でする必要はなくて、どの部分に注力するのがいいのかといった判断がつきやすくなりました。当日の運営に関しても、屋外と体育館と両方使っていることに加えてメンバーがあまり多くないからこそ、あまりメンバー同士で固まらずに分かれて、全体をみんなで見守るということが自然にできるようになっていきました。子どもたちもスポーツ輪投げやノボリの片付け方を覚えていて、細かく方法を伝えなくても手伝ってくれるので準備や片付けもスムーズになってきました。

一つ大変だと感じているのは道具の運搬ですね。どこでも運動場の道具を保管している西原のスポーツセンターが神宮前から少し遠いのと、女性が車に積むには少し量が多く重いものもあるので、開始時間に間に合わないといけないと思うと、少しプレッシャーに感じていました。だから次回は、身近なところで準備できる道具だけを使ってやってみたらどうなるかを試してみようと思っています。体育館でボール遊びができるだけでもみんな喜んでいるし、道具もどれぐらいあればいいのかもわかってきた。それも回数を重ねたから見えてきたことですね。

※渋谷どこでも運動場プロジェクトでは、定期的に開催をする団体には、いくつかの物品を収納ボックスと合わせて貸与する仕組みがあります。

− 実際に渋谷どこでも運動場プロジェクトに取り組んでみてよかったこと、手応えなどを聞かせてください。

やっぱり子どもたちが楽しんでいるのがよかったと思います。特に知らない子がきてくれると嬉しいですね。シンプルに子どもの笑顔が見られるが一番嬉しいです。
同じ地域に住んでいても話したこともなかった人と話す機会にもなりました。道で通りすがるだけでいきなり話しかけたら変な人だけど、どこでも運動場の中だと、おばあちゃんでも子どもでも気軽にお話しすることができる。場所をつくるだけで知り合いみたいになれるのがよかったです。
でも、渋谷どこでも運動場プロジェクトという仕組みがなかったら、何度もそういった機会をつくることはできなかったと思います。自分たちだけだったら絶対やっていないしできなかった。お友達コミュニティの中で止まっていて、同じ地域に住んでいても話したこともない人とは話さないままだったと思います。

あとは、どこでも運動場に取り組んでみて、意識改革が起きました。これまで地域で動いてくれていた人とのつながりができて、自分たちも「あ、やろうと思えばできるんだ」とわかった。いままでは地域のイベントなども参加するだけ、消費するだけだったけど、今回自分たちで動いたことで地域の当事者になった。「消費者ママから当事者ママ」にという意識の変化がありました。だから、2回目からは地域の人たちにも自分ごとにしてもらえたらと思って、準備や片付けを子どもも含めて参加者の人と一緒にやることを意識してお願いや声掛けをするようにしたら、地域のお父さんが自分の子ども以外にテニスを教えてくれたり、お母さんたちも他の子どもを見守ってくれたりする姿が見られたのは嬉しかったですね。

− 最後にプロジェクトへの期待を聞かせてください。

都心だから子どもが遊べる場所は少ないので、こういう活動が増えるのはいいことだと思います。特に渋谷区は人も多いし、神宮前の場合は小学生は代々木公園に行こうにも大きい道路を渡らないといけない。身近に遊べる場所がいろいろなところにできるといいなと思います。みんながどこでも運動場をやれば、いっぱい遊べることができると思います。
あと、今の日本は子どもに対してちょっと厳しいと思っていて、近所でボール遊びをしていたら怒られたりする。もちろん、怒るべきところでは怒っていいと思いますが、どこでも運動場をすることで、本当の意味で地域で子どもを見守るように大人の目線が変わっていくきっかけになるといいなと思います。

− ありがとうございました。

子育て中の母親の皆さんならではの問題意識から始まった神宮前地区でのどこでも運動場ですが、子どもが遊べる機会ができただけでなく、町会などの地域で動いてくださっている方々とのつながりや、同じ地域に住んでいる人と出会う機会にもなったこと、さらには「消費者ママから当事者ママ」へと意識がかわり、どこでも運動場をきっかけにして、それ以外の活動も広がっているということも素敵なエピソードだと感じました

渋谷どこでも運動場プロジェクトでは、TOKYO PLAYが企画から実施までサポートをしますので、自分の住んでいる地域でも取り組んでみたいという方は、ぜひお問合せください。