連続記事①渋谷区 長谷部区長 × TOKYO PLAY 嶋村仁志 対談


2018年度より開始した渋谷どこでも運動場プロジェクトも今年で5年目を迎えました。途中、世界を襲ったコロナ禍により取り組みを控える時期が続きましたが、今春から徐々に開催も増え始め、またこれまで溜まっていたエネルギーが噴き出したかのように、実施してみたいという相談も増えてきました。
このタイミングで、改めて渋谷どこでも運動場プロジェクトの趣旨を広くお伝えしていくべく、4回に渡り記事を公開していくことにしました。

その他の記事
②TOKYO PLAY 代表理事 嶋村インタビュー
③実施グループインタビュー
④海外(イギリス)の先進事例紹介


初回は、長谷部区長に渋谷区の健康・スポーツに関する取り組みや、渋谷どこでも運動場プロジェクトに対する期待などについて、プロジェクトの企画・運営を担当する一般社団法人TOKYO PLAYの代表理事 嶋村との対談形式でお話を伺いました。

※本インタビューは撮影時を除き、適切な距離を保って行いました。

− 渋谷区では、基本構想における健康・スポーツ分野のビジョンとして「思わず身体を動かしたくなる街へ。」を掲げていますが、そこに至った経緯、また、込めた想いなどを教えてください。

長谷部区長
基本構想の最上位には「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」があります。その最上位のビジョンを実現するために「子育て・教育・生涯学習」や「福祉」といった7つのカテゴリーがあり、その中の「健康・スポーツ」で「思わず身体を動かしたくなる街へ。」というビジョンを規定しています。

渋谷区は土地が狭く運動する場所が限られていますが、その一方で「見る」ことに関しては、トップオブトップを見ることができる場所が近くに集まっています。その上で、スポーツを体育館や競技場でやられている狭義のものでなく、もう少し広く、スポーツの語源である「deportare」(デポルターレ。ラテン語)のように、「気晴らしする、発散する」といったことを踏まえた構想にできないかと思い描きながら、検討を進めてもらうようにお願いをしていました。 渋谷区基本構想等審議会(以下、審議会)での議論を経て「思わず身体を動かしたくなる街へ。」になったのですが、私が一番気に入っているのは、ビジョンのステートメント(声明文)にある『渋谷区自身を「15平方キロメートルの運動場」と捉えて』、政策を考えていくという部分です。思い描いていたものをうまく反映いただいたと思っています。

嶋村
私は「思わず」という言葉がとても良いなと思っています。「身体を動かしたくなる街」は他でもあると思いますが、「思わず」という言葉はどのような経緯で加わったのでしょうか。

長谷部区長
そこはコピーライターの方が上手く考えてくれました。今の基本構想をつくるときに今までの他の自治体と違うやり方をしているのですが、それはコピーライターに入ってもらっていることです。審議会にも全て参加してもらって、コピーライターの視点で毎回レポートをまとめてもらうようにしました。私は言葉の持つ力をすごく信じているタイプ。基本構想は言葉の力が強いものなので、多くの人に共感をしてもらえる。審議会で出てきた話を上手くまとめてもらえたと思っています。

嶋村
私たちも色々な機会で渋谷どこでも運動場プロジェクトを説明するときに、「15平方キロメートル全体で」という話をすると、すごくわかりやすいみたいです。

長谷部区長
その上で「どこでも運動場」というプロジェクトのコンセプトは、まさに基本構想と合致しますね。私は、道路や公開空地などをもう少し子どもたちが遊んだりスポーツができる場所にしたいと思っています。この間も区内の都道、通称「水道道路」を交通規制してワンマイルロードレース(北渋マイル/北渋Run Runフェスタ)を初めて開催しました。今まで街は「面」で捉えられていましたが、道路を使うと「線」でつながります。隣の街同士、笹塚・幡ヶ谷・初台をササハタハツとしてつなげたことにも意味が出てきますし、まちづくりの面白い視点になりました。公園などもみんなのリビングだと考えてもいい。いろいろと発想を変えると面白いアイディアが出てくると思います。

嶋村
私も昔は道路で缶けりをしたりキャッチボールをしたりして遊んでいましたが、子どもの頃はなぜ道路を使えていたのだろうと思うと、車がそれほど通らなかった。今はそうではないですが、でも、道路は車のためだけのスペースではないということに改めて気づかせてもらえるということでも意味は大きいと思います。

− 健康・スポーツの面から見た渋谷区の現状についてはどのように考えていますか。

長谷部区長
例えば子どもたちの体力テストの結果を見ると、ほとんどの種目で全国平均以上ですが、投げる力や遠投だけは平均以下です。多分、キャッチボールなど投げる機会が少ないのだと思います。その辺りは如実に現れているように感じています。高齢者も積極的に体操や散歩など、都心でもやれることはやっていますが、さらに都心らしくデジタルやデータを絡めていくことができないかと思い描いています。

嶋村
子どもも野球以外の様々なスポーツに取り組むようになっていますね。

長谷部区長
そうですね。野球をやっている子どももいるのですが、昔より投げる力が確実に減っていることを、数字を見ると感じます。昔は野球も道路でできていた。その影響も数字に出ているのかと考えています。

嶋村
昔は習い事に通っている子どもだけでなく、誰もが日常の中で野球を含めて身体を動かすことができていた。

長谷部区長
中学校では今部活動が難しくなっています。渋谷区では小学校から中学校に進学する際に、半分程度が私立に行きます。さらに少子化の影響もあって、1学年に1クラスしかない中学校も多いです。区内には中学校が8校ありますが、例えばサッカー部はその内の4校にしかありません。野球部は7校にありますが、どちらも生徒数が少なくて部員が集まらない。これは非常に大きな問題だと考えています。
一方で、地域に対してシティプライドを持ったり親しみを持つのは、中学生ぐらいの時に地元で公立の学校に通っていると強くなると個人的に感じています。だから公立に行ってほしいということではなくて、部活動だけは地元でやるということがいいのではないかと思っています。それは、国が言う総合型地域スポーツクラブへの移行とまさに考えが一致します。渋谷区では国が言う前から課題を捉えていたので、昨年度に一般社団法人渋谷ユナイテッドをつくりました。最初は部活動の支援から始めていますが、今後は学校の建て替えが進むことと合わせて、全ての学校でサッカーや野球ができるのではなく、この学校ではサッカー、この学校では野球といった総合的に配置をしたいと考えています。授業が終わったら自転車で隣の学校まで部活動をしにいくイメージです。
その他にも、子どもたちにアンケートをとったところ、「フェンシングをやってみたい」という子どもが10人以上いました。渋谷区は日本初のフェンシング銀メダリストである太田 雄貴さんたち選手が各学校を回ってくださったので、やってみたいという声が多かったのだと思いますが、その声を受けて、全ての学校には無理ですが、渋谷ユナイテッドで1つフェンシング部を作りました。中学校で始めましたが、小学校まで対象を広げて、私立に進学しても来てもいい、続けられるようなことをしたいと考えています。他にもダンスやeスポーツでも同じような流れが生まれています。
また、渋谷区ではボッチャの普及に力を入れていて、ボッチャ部ができたのですが、練習相手が少ないという状況が生まれています。であれば、高齢者でボッチャをやられている方はいっぱいいるので、部活動の域を出て地域の人を呼んではどうかと。それが総合型のスポーツクラブになっていく。そんなことを試行しています。これまで学校単位でやっていたものを、種目や地域単位で移行しつつあるので、その辺りも楽しみに見ておいていただければと思います。

嶋村
興味深いですね。注目しておきます。あと小学生はどうでしょうか、草スポーツとか。渋谷どこでも運動場プロジェクトでもより開拓できないかと思っています。

長谷部区長
習い事をやっている子どもが多いとは思いますが、学校とか公共の場所で草スポーツのようなことができると集まれるのではないかと思います。ぜひ、いい場所を見つけて取り組んでいただきたいです。

嶋村
一度、恵比寿の道路(歩行者専用道路に指定されている時間帯に)でどこでも運動場を実施した際にボッチャをやりました。近所の子どもと高齢者の方と一緒にやったのですが、小学生の方が投げ方とか上手かったりして。

長谷部区長
それを定期的にできるようにしたいですね。例えば毎週日曜日の何時から何時までとか。まだその夢はもっています。

嶋村
イギリスでは全国で1,000を超える場所で、一時的に道路を交通規制してご近所の人たちが身体を動かしたり遊んだりできるようになっています。同じ区内でも数十ヶ所で行われていて、一つひとつの場所は月1度の規制でも、翌週は他の人たちが近くのエリアで、その翌週はまたさらに別のエリアの人たちが規制しているという状況で、毎週どこかの道路が遊べる場所になっています。
これは行政が、1週間に1度、3時間までの道路の使用許可の申請であれば、毎回ではなく年に1度の申請でOKとするなど、住民の取り組みを支援する仕組みを作っているから可能になっています。

長谷部区長
渋谷区でも何か方法を考えたいですね。

嶋村
今のお話も含めて、渋谷どこでも運動場プロジェクトに期待していることを伺えますか。

長谷部区長
やれる場所をもっと増やしたいですね。毎週とか定期的にやれる場所を。

嶋村
今年度に入って毎月実施する団体が出てきていて、面白い展開になってきたなと思っています。ある場所でデモ的に実施をしながら、その場所での運営の担い手を探していくこともできると思います。

長谷部区長
ぜひ、そういう団体を増やしていきたいですね。実施する団体とか、見守ってくれる方々には「ハチポ」のポイントを渡せるようにするなどのインセンティブも考えたいですね。

※「ひと・まち・地球にうれしい体験で地域をつなげるコミュニティ通貨(電子地域通貨)サービス『まちのコイン』」の一つ。地域活動やお店などで獲得でき、換金性がない代わりにお店やイベントで「お金で買えないうれしい体験」に利用できます。(参考:https://www.hachi-pay.tokyo/hachipo/

嶋村
自分たちの区のために何か楽しめることをしようということも、渋谷どこでも運動場プロジェクトの趣旨の一つだと思うので、「ハチポ」のようなインセンティブがあることで「やってみよう」と思う人は出てくると思います。

長谷部区長
青少年対策地区委員会という組織があって、地域活性化事業として各地区でイベントなどを開催しているけど、委員会の方々に活躍してもらうという手もありそう。渋谷どこでも運動場プロジェクトの存在感も少しずつ高まってきたので、既存の地域の組織の方々とも相談しながら進めていくこともやっていきましょう。

− 先ほどイギリスの話題が出ましたが、イギリスで1,000ヶ所以上で住民が道路を活用できているのは、行政が支援の仕組みをしっかりとつくっていることによると思っています。「ハチポ」は渋谷らしい支援のアイディアだなと思いました。

長谷部区長
新しくやろうとすると新たに予算が掛かってしまうけど、行政はこれまでも似たようなことをやってきていて、最初のコンセプトは変わらないけど表現が古びているなど、今の時代に合わない事業も結構持っています。それらを再編集することでできることは多いと思っています。そう言ったものを活用しながら、渋谷どこでも運動場プロジェクトも第二ステージに進めていきたいですね。

嶋村
そうですね、ステージを進めていきたいです。引き続きよろしくお願いします。

− 本日はありがとうございました。

その他の記事
②TOKYO PLAY 代表理事 嶋村インタビュー
③実施グループインタビュー