【日 時】2021年2月14日(日)10:00〜11:45
【ゲスト】積田 綾子さん
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中で、こんな社会状況だからこそ大切にしたいこと・できることを考える学習会を開催しました。
第二回は、小児科医の積田さんをお招きして、「運動×心身の発達・成長」について学びました。
《ゲストのご紹介》
小児科専門医/(一社)日本運動療育協会理事
金沢医科大学卒業。平成13年 順天堂大学医学部附属順天堂医院 小児科入局。 平成16年より順天堂浦安病院助教 、クリニック院長、島田療育センター八王子勤務などの経験の中で多くの障害児に関わる。
発達障害児に対し、投薬が無効な事例があると感じていた頃、脳と運動の世界的権威であるHarvardのJohn. J. Ratey 博士と出会い、楽しい運動が発達障害児に及ぼすポジティブな影響に衝撃を受ける。
その後、Ratey博士の勧めで自然とテクノロジーが融合し、医療、教育、福祉、経済、まちづくりが融合した米国のThe Center For Discoveryへのインターンシップが実現。それが大きな転機となり、その経験を生かし小児から成人のより心身が豊かになる福祉を実現するために、現在は地域のリハビリテーション病院に勤務しながらまちづくりに参加している。
一般社団法人日本運動療育協会理事。
《ゲストの講演のダイジェスト》
”こころ”と”からだ”は繋がっている
- 医者の仕事を通して処方だけでよくならない人をいっぱい見てきて悩んでいた時に、「脳を鍛えるには運動しかない」という本と出会い衝撃を受けた。そして著者のJohn. J. Ratey博士に会いにいった。
- John. J. Ratey博士と一緒に、運動と脳のことを踏まえて運動療育を子どもに伝えていく中で、発達障害児が良くなっていくのを目の当たりにしてきた。
- 新生児室にいくと、生まれた日からわさわさ・ゴロゴロ動いている子がいる。子どもたちは動いたり感じたりしながら育っていく。人の始まりは動いて感じること。”こころ”と”からだ”は繋がっている。
人の成長には安全基地が必要
- 人は集団の中で育つようにできている。なぜなら何も一人ではできない状態で生まれてくる。「誰か守って」ということが大前提。その誰かというのは母親だけに依存するものではなく、家族だけでもなく、親戚が育てたり近所の人が育てたりしても、同じようにちゃんと「誰かが守ってくれる」という事を学ぶようにできている。
- 子どもはいろいろ試したり、遊んだりする中で「ここまでやってもいいんだ、出て行ってもいいんだ、人は守ってくれるんだ」という安全基地を学んで、その中で自分というものを確立していく。
- 「Still Face Experiment」という実験がある。お母さんが子どもをあやして一緒に遊んでいる様子から一転して能面のような顔で無反応になると、子どもは最終的に泣き出してしまう。安全基地があることで安心して遊び出すということがわかる。
発達や認知には段階がある
- 子どもに「このスキルが身につく」というものをやらせても、最初からはできない。
- 発達は一番のベースとなる中枢神経や五感などの感覚システムができて、ちゃんと感じられるようになってから、発達に合わせて遊んでいくなかで順番に機能が作られていく。
- 認知にも段階があり、心のエネルギーがしっかりしてきて、自分を出したり抑えたりすることがわかってきて初めて集中力や情報処理能力、記録力などを使うような物事ができるようになる。
- 生後すぐはすべてのお世話をしてもらうことで、安心して何か意図のある動きをして、お母さんとくっついたり離れたりを繰り返しながら、だんだん人を意識して見られるようになる。
- 遊びは最初は感覚を使ったものから、物を操作したり、真似っこしたり、それを見立てて遊んだり、ごっこ遊びをしたりという段階を経て運動が深まっていく。同じ運動でもスポーツなど少し高度なものに関してはその先にできるようになる。
思いっきり体を動かすことで集中力が高まる
- 宇都宮市にあるさつき幼稚園では、1日のカリキュラムが始まる前に、親御さんも参加して10分ぐらい思いっきり体を動かして遊ぶ。マットの上をゴロゴロ転がったり、80代?の園長先生の上に登っていくなどして遊ぶ。
- いっぱい遊んで心拍数が上がって脳がブーストされることで体の機能や集中力などが高まって、遊びの時間が終わるとすぐに切り替えて1日のカリキュラムに入っていく。
- 脳の画像を見ると、運動をすることで脳の血流が増えることがわかっている。血流が増えることで、脳の機能が良くなる。
単なる運動と興味をもつ運動(≒遊び)とでは、脳の動きが違う
- まず興味が生まれると「面白そう」といった感情が動かされる。人の行動を決めるのは感情と言われているので、感情から行動へとつながる。そうすると「楽しかった」と満足したり、「すごいね」と褒められたりする。経験が積み重なっていくと、さらに興味が広がっていき、このサイクルがより繰り返されることになる。これが単なる運動と興味を持って体を動かすことの違いになってくる。
- 学校の体育も少し考え直してみるともっと有意義になるのではないか。そういうことを考えている先生たちが「未来の体育共創サミット」というプロジェクトを進めていて、とても面白い話が聞ける。
ストレスによって心と体の疾病率が高くなる
- 15歳未満の人口の中の6.5%が発達障害児と言われていて、発達障害児は、そのように診断されること自体ですごくストレスを抱えてしまっている。
- ストレスは疾患と関係があると言われている。糖尿病やうつ病。高血圧なども関係があったり、発達障害とか虐待、逆行体験・人生に起こってほしくない体験をずっとしてしまった子どもは心と体の疾病の率が高くなることが分かっている。
- 特に慢性的にかけられ続けるストレスは心と体の健康を大きく害する。例えば、家庭や学校からのプレッシャー。昭和時代は非行に走るとかだったけど、今は引きこもってネット依存になっていたりする。その結果、感覚が遮断される。人とのつながりがなくなったり、目の動きも単調になり、ボタンを押せばパソコンが反応してくれるので報酬も短絡的になり、キレやすい子になったりする。
- 自閉症の子どもたちが1番ストレスに弱いと言われている。自閉症の子どもは健常の大人に比べて、お腹や血圧の問題、寝れなかったり不安だったり、体と心身の問題がすごく多いことが分かっている。そして健常の大人に比べて自殺率が433パーセントも高い。ストレスを癒すことがとてもなポイントになる。
運動することでストレスが軽減される
- コロナ禍でみんなストレスを抱えている今こそ、体を動かす必要がある。
- 運動療育で関わっていたある発達障害の子どもの例。その子は最初全然笑わなくて、自分の祖母とも話さなかったり、爪が生えてこなくなるぐらい自分の指を噛んでしまっていた。そこで本人が楽しくてしょうがないという運動を60分1セット×12回やったところ、全然爪も噛まなくなったし、祖母と旅行にも行けるようになったり、すごく笑うようになった。何かを教える前に、遊ぶことが大事。
- 筋肉痛を引き起こすと言われる乳酸は記憶を定着させる物質でもある。他にも、運動を始めて10分程度するとBDNFという物質が出てくる。脳の肥料と言われていて、脳内のネットワーク、シナプス形成を促進する。でも止めてしまうと戻るので、繰り返すことで脳のシナプスが強く結合していく。運動の効果は計り知れない。
運動したり遊ぶには環境が必要
- 現代は地球温暖化がとても進んでいる。平成30年か31年の夏の気温が30度程度の日にとったデータを見ると、滑り台の表面温度が70.5度、地面も69.6度になっていた。こんなところで子どもたちは遊べるのかと思う。数十年先も子どもたちに遊んで欲しいと思うのあれば、今大人の私たちが遊ぶ環境も考えていく必要がある。
- 運動には色々と効果があるけど、屋内と屋外とではその効果が全く違うことが分かっている。酸素の取り込みも違えば、目から処理する情報も違う。風をいっぱい感じて、道路の凹凸を足が感じるなど、全然が入る刺激が違う。
遊ばない手はない
- 屋内で運動するより、外遊びの方が体のコンディションも心のコンディションにもメリットがあり、コンディションが良くなることが分かっている。
- 子育てではどうしても正解を求めてしまう。巷には様々なメソッドが溢れているけど、絶対に人間は土台が大事。絶対に外せない共通する正解が一つするとすれば、それは遊び。遊びがもたらすものはとても大きい。
- でも今の時代は遊びのハードルが高くなっている。原っぱは減り、頼れるおじいちゃんとかも少なくなったし、公園デビューといったハードルもある。渋谷区には、はるのおがわプレーパークという素晴らしい公園があって、そこにはプレーリーダーという人がいるのでおすすめ。
- 感情を伴った豊かな遊びは、認知機能や想像力とかクリエイティビティ、パフォーマンスが良くなるという研究が最近いっぱい出てきている。子どもの遊びを制限せずに、遊びの中から学ぶということをやっていければ、表情も豊かになっていく。身体を動かして五感を使うことで心も育っていく。
後半の質疑応答・トークセッションでは、積田さんの話題の中にもあがった、はるのおがわプレーパークを運営されている渋谷の遊び場を考える会(渋谷どこでも運動場プロジェクトの運営の協力もいただいています)の小水さんにもお話を伺いながら、どうやったら自由に運動や遊びができる環境をつくることができるかが話題の中心になりました。
《最後の一言より》
TOKYO PLAY嶋村(ホスト)
積田さんのお話から、子どもは子どもなりに生き物としての育ちがあるということを、すごく学びました。だから、そのための環境をどう整えるかというところを、渋谷どこでも運動場プロジェクトとつなげて、多くの人に知ってもらえたらと思っています。
積田さん
今日の話で絶対に持って帰ってほしいことは「体と心は連動している。成長とも連動している」ということ。あと遊びを工夫しなくてはいけない、今コロナ禍でそういう環境下にあるということ。今日、参加してくださった大人の方達はきっと遊びに興味のある方だと思うので、ご自分の周りからアクションしてほしいです。
積田さんは、現在ササハタハツエリアのまちづくりのプロジェクト「ササハタハツまちラボ」の中で、インクルーシブ運動場プロジェクトに取り組まれています。今後、渋谷どこでも運動場プロジェクトとも連携して、「誰もがいていい場所」づくりを進めていくので、ぜひチェックして見てください。